小泉地区防潮堤に第三者評価を

小泉地区防潮堤に第三者評価を

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中島海岸説明会2013.11.27資料_page001
首相夫人主催の防潮堤フォーラムが、三陸新報の連載記事で紹介されています。市内外から注目度の高いことなので、ここで小泉地区の防潮堤計画について私の考えをまとめてみます。結論から言えば、このまま計画を進めることには反対です。それは宮城県が示した計画の内容でもなく、住民合意の問題でもなく、事業のチェック方法、そして防災や危機管理に関する行政の基本的な考え方に疑問があるからです。
まずは、小泉地区の防潮堤計画について簡単に説明しておきましょう。
海水浴場があった小泉海岸には、震災前に海抜5.5mの防潮堤がありました。しかし、東日本大震災では20m超の大津波によって跡形もなく破壊され、津谷川上流にある津谷地区まで津波が達しました。海岸を管理する宮城県は国の指針に基づき、ここに海抜14.7mの防潮堤を計画しています。新しい防潮堤が防ぐのはレベル1津波に分類される明治三陸級の津波で、東日本大震災級のレベル2津波を防ぐことはできません。山のようの形状ですが、津波が乗り越えても決壊しにくいように、海側だけでなく陸側の斜面もコンクリートで覆います。総事業費は津谷川を含めて約230億円です。すべて国の災害復旧費が充てられます。新しい防潮堤がレベル1津波から守るエリアには、住宅はありませんし、危険区域なので今後も住宅が建設されることはありません。
最初に、新しい防潮堤のメリットを私なりに紹介します。
海抜14.7mの津波防御施設ができることで、レベル2津波の勢いを弱める効果はあり、津谷地区の被害は軽減されます。気仙沼市の災害危険区域(民家等の建築を制限する区域)は、新しい防潮堤を整備してもレベル2津波によって浸水する地域を指定しましたが、津谷地区にある市立本吉病院などは危険区域から外れることができました。堤防整備によって高さは上がりますが、震災前と同じルートを通る予定のJR気仙沼線、国道45号、そして復旧した田畑も守られます。かつての市街地に住宅が建つことはなくても、商店街や工場などは危険区域内でも立地可能です。何よりも、レベル1津波対応とはいえ、津波被害に対する住民の不安が軽減されます。
次は現計画のデメリットです。
中島海岸説明会2013.11.27資料_page003
防潮堤の位置は海岸線に近いため、震災前のような砂浜が本当に戻ってくるという確証はありません。全面コンクリート張りのため、景観は一変します。津波でできた干潟を活用するアイデアは実現不可能になります。巨大防潮堤ができたことで油断し、住民が避難しなくなる心配もあります。レベル1とか、レベル2という考え方が100年先まで正しく伝わるか分かりませんし、今後の維持管理費、施設更新時の費用負担も心配です。巨大な構造物が、地下水や生態系へ及ぼす影響についても「絶対に大丈夫」とは言えないはずです。
税金の使われ方にも疑問があります。230億円の事業費は、他の災害復旧費用と同じように復興財源から捻出されます。復興財源は全国民の個人所得税を25年にわたって特別に増税するなどして生み出し、今のところ25兆円という上限があります。特別会計の中で管理されており、事業費を節約した分は、必ずほかの復興事業に使われることになっています。230億円といえば、小泉小学校(9億円)なら25個、来年オープン予定の仙台博物館(65億円)なら3個分の費用です。
県は住民との合意形成を理由に事業を進めようとしているため、その合意形成について問題視するメディアも多いのですが、その視点だけで判断するのは危険です。なぜなら、防災に関することは多数決で決めてはいけないからです。
多くの職員が犠牲になった南三陸町役場の防災庁舎は、志津川町と歌津町の合併協定によって震災前に高台へ移転するはずでしたが、新町が設置した住民らによる検討委がその計画を白紙に戻してしまいました。いつくるか分からない津波の対策よりも、町民の福祉向上のために予算を使ってほしいということが理由でした。しかし、その決断は結果的に誤りだったのです。こうした反省を踏まえて、防災に関しては専門家の意見をしっかり聞いて、住民に選ばれたリーダーが未来を見据えて判断すべきだと私は思っています。だから、小泉のことも、住民がほしいなら造る、いらないなら造らないという判断は危険なのです。
では、宮城県知事の判断に任せればいいのかというと、それも少し違います。
被災地はまだ、防災に関して頭の中が整理できていません。国がレベル1、レベル2津波の考え方を示し、それに基づいて復興計画を進めていますが、震災前はチリ地震津波を対象とした堤防高でしたし、防災計画も連動型の宮城県沖地震に備えていました。この大きな方針転換は、とても災害復旧で対応できるようなものではありませんし、多くの住民が理解して納得したものでもありません。富士山だって100~200年に1回のペースで噴火するといいます。新しい防潮堤は、津波のせり上がり分を考慮した上で、余裕高の1mをさらにプラスしています。三陸が津波常襲地帯とはいえ、私たちは本当にレベル1津波に対して100%の安全を求めなければならないのでしょうか。プレートのエネルギーが解放されたばかりなのに、震災発生から数年以内にレベル2津波に対する完璧な備えをしなければならないのでしょうか。震災から3年が過ぎ、心が少し落ち着いたところで、立ち止まって考えてみる時間はないのでしょうか。津波防災上のリスクをゼロにすることで、ほかのリスクが高まることもあり、防潮堤計画だけが単独で進むことも問題です。
そのためにも、専門家と行政が公開の場でしっかり議論してほしいと思います。何度も説明会に参加してきた住民の中には「もうたくさんだ。早く進めてほしい」という声が多いのも事実ですが、それは同じ内容を繰り返してして説明するからです。防潮堤のメリットとデメリットはもちろんのこと、限りある復興財源、それを負担している人たち、防災、まちづくりを含めて、話し合いのプロを入れて議論してほしいです。復興事業以外の大規模事業は、いくら住民が造ってほしいといっても、税金を投入するためには意見公募や第三者評価などの厳しい手続きがありました。三陸道だって地元がいくら要望しても、費用対効果の問題もあってなかなか進みませんでした。結果的に防潮堤計画の内容が変わらないにしても、専門家による第三者評価だけは急いで実施してほしいです。できるなら、防潮堤の用地は先行して買収して地権者の不安をなくした上で、冷静に考える時間を上げてください。国も節約できた費用の一部でもいいので、小泉地区に優先配分する仕組みをつくって下さい。
もう一つだけ問題を提起します。
津谷川2県の防潮堤はレベル1津波を対象としているのに、最近になってレベル2津波の浸水域が変わらないことを計画変更の条件に付け加えました。
防潮堤の位置を海岸線から陸側に遠ざけると、レベル2津波の浸水域が拡大し、高台にあって今回無事だった小泉幼稚園や小・中学校、福祉施設まで浸水域に入ってしまうという津波シミュレーション結果を示し、計画が変更できないことを説明しました。これでは、レベル2津波は多重防御や避難などを組み合わせて対応するという国の考え方から外れていると思います。もしこのルールを適用すると、小田の浜、鮪立、お伊勢浜など、防潮堤を陸側に後退させた海岸は、すべてレベル2津波のシミュレーションを行い、海岸線に設置した場合と比較して背後地の浸水域が拡大しないことを確認しなければなりません。防潮堤に関するルールは、時間が経過するほど変化しており、私の目から見て行政側も十分に整理できていない気がします。例えば、漁港関係では「レベル1津波の浸水域に民家がない」ということを防潮堤を原形復旧にする条件の一つとしているのです。レベル1津波だけ考えれば、小泉地区の防潮堤を原形復旧にしても、三陸道の効果もあって津谷地区の市街地に津波は到達しないのです。
私は防潮堤フォーラムで、住民を「賛成派」と「反対派」には分けるのではなく、「現実派」と「理想派」で分けるべきだと訴えました。
それは、納得できない面があっても他に選択肢がないため、現実的な考え方で計画を受け入れた人がほとんどだと感じているからです。一方、「理想派」だって防潮堤が全く不要と主張しているわけではありません。位置や構造を変えることで、景観や自然への影響を軽減し、干潟の活用などで新たなまちづくりへ夢が広がると信じ、諦めきれずにいるのです。どちらが正しいとか、誤っているということではないのです。県も命を守るという観点で、一生懸命仕事をしてくれています。
険しい道のりになる復興に、理想や希望は欠かせません。だから、地域に関係がなくても多くの人たちが理想派を応援しています。すでに手遅れかもしれませんが、私も最後まで解決策を探し続けます。
2014.6.7 気仙沼市議会議員 今川悟

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