2015年3月7日05時00分
東日本大震災の岩手、宮城、福島の被災者約千人を対象にした朝日新聞のアンケートで、8割近い人が復興や支援に「格差」を感じていることがわかった。この4年で住まいを再建した人がいる一方で、なお仮住まいの人が6割に上り、明暗が分かれつつある。
■住宅再建「資金ある人だけ」
被災者間で、復興や支援に格差を感じているか尋ねたところ、「感じる」が39%、「どちらかといえば感じる」が39%で、合わせて78%に上った。
県別では、岩手は「感じる」「どちらかといえば」が計74%、宮城は計75%だったのに対し、福島では計86%に上り、より多くの人が格差を実感していた。
「感じる」「どちらかといえば感じる」と答えた人にどんな点に格差を感じるか複数回答で尋ねると、「生活全般への支援」が宮城で51%、岩手45%、福島44%。「住宅再建への支援」は岩手47%、宮城48%と高く、福島は34%。一方、福島では、「原発事故被害への賠償」を格差に挙げた人が73%を占め、政府の避難指示の出し方によって賠償額が変わることへの根強い不満が浮かぶ。
福島県広野町は当初、屋内退避が求められる緊急時避難準備区域に指定され、精神的な損害に対して、町民1人に月10万円の賠償が支給されていた。だが、2011年9月末に指定が解除されると、約1年後に支給が打ち切られた。昨年4月にいわき市の仮設から広野町の自宅に戻った会社員男性(46)は「同じ双葉郡内で賠償が続いている自治体もあるのに『なぜ』という気持ち。納得できない」と不満を募らせる。
宮城県女川町で被災し、石巻市の仮設住宅で暮らす主婦(48)は住宅再建の資金に格差を感じるという。「新しいところで土地を買おうと思っても、坪単価は以前の3倍。資金面で余裕がある人は建てられる。地価の高騰を抑える仕組みが作れなかったのか」と疑問を投げかける。
岩手県大槌町の地域支援員の女性(67)は医療機関の復興の格差を指摘する。町にあった県立大槌病院は津波で流され、今も仮設のままだ。受診できる曜日も診療科も限られる。さらに、女性が暮らす山あいの仮設住宅からはバスの本数も少ない。「持病を抱えているお年寄りは不安。車を運転できない人もいて、病院を遠く感じている」と話す。
震災から4年がたち、風化を感じるかとの問いには、「感じる」30%、「どちらかといえば感じる」36%で計66%(昨年76%)。県別では、岩手が計60%(同74%)、宮城が計59%(同72%)と前年より大きく下がったのに対し、福島は計80%(同83%)と際だって高かった。
■仮住まい、なお6割 「生活費で手いっぱい」
被災者に今の住まいを尋ねると、「仮設住宅」が53%、借り上げの民間アパートや公営住宅などの「みなし仮設住宅」が7%、「親類宅」も含めた仮住まいの人が61%を占めた。2年前の87%、昨年の76%と比べると年々、減少しているが、なお、6割の人が仮住まいで避難生活を送っている。
仮住まいの人を県別でみると、岩手59%(昨年70%)、宮城58%(同72%)、原発避難を伴う福島は66%(同88%)だった。大半の人が震災前の地元を離れて避難している福島では、この1年で仮住まいを出て再出発する人が増えた。仮住まいを出た人の転居先を分析すると、半数以上の人が地元に戻らず、震災前とは異なる自治体に移っていた。
自宅を再建・新築した人は26%。自力での再建が困難な人のために、自治体などが整備を進める災害公営住宅(復興住宅)に入居できた人は3%(同1%)にとどまった。
仮設住宅やみなし仮設で暮らす人に、いつまで入居が必要か尋ねると、「あと1年」が28%、「あと2年」が19%、「2年超」も13%に上った。
岩手県大槌町で、自宅兼総菜店舗が津波で流された女性(65)は、町内の土地のかさ上げが進まず、仮設住宅を出るめどが立たない。「小さくていいから家がほしい。また店を出したいが、今は生活費で手いっぱい」と話す。
現在の地元の復興と、自分自身の復興の進み具合を震災直後(1段階)から、震災直前まで戻った状態(10段階)で、10段階のうちどの段階か尋ねた。地元の復興は、全体の平均で4・0。県別では岩手が4・4、宮城が4・3、福島は3・4だった。
一方、自分自身の復興では、全体の平均は5・0で、3県別では、岩手が5・5、宮城5・4に対して、福島は4・1で、福島の被災者がより復興を実感できていない。
福島県大熊町から会津若松市の仮設住宅に避難している主婦(39)は小学生の子を3人抱える。街の復興を「1」とした。自宅がある大熊町は帰還困難区域に指定され、戻れる見通しは全く立たない。「子どもは成人式を一体どこで迎えるのか、かわいそう。大熊の復興は何もかも進んでいないし、4年前から時間が止まったままです」
■医療・介護、要望高まる 84歳「年金生活で心配」
将来の生活の悩みや不安を複数回答で尋ねると、「生活費など経済的な見通し」が66%(昨年58%)で最も多かった。「仕事の維持・確保」42%(同39%)、「避難生活による自分や家族の健康の悪化」30%(同33%)が続いた。
国や自治体に優先してほしい課題を三つまで挙げてもらったところ、「医療費の助成」が41%(同38%)でこれまでの4回の調査で最も高くなった。昨年は最もニーズが高かった「持ち家再建の資金支援」は32%(同39%)と2番手に。「月々の生活費の補助」30%(同24%)、「介護サービスの充実や福祉施設の再建・増設」27%(同19%)が続いた。
住宅を再建できていない人からは、支援を求める声が根強くある一方、再建した人からは、医療費や生活費の支援、福祉の充実を求める声が増えるなど、要望が多様化している。津波で自宅が全壊した宮城県山元町の男性(84)は貯金を切り崩して家を建てた。最近は体力が落ち、車いすを使い、介護サービスを利用する。「年金生活でこれからの生活費や介護が心配。国や自治体にはこれからも被災者の生活を考えてほしい」
〈アンケート方法〉2012年に「いま伝えたい 千人の声」で取材した岩手、宮城、福島3県の被災者やその保護者のうち、転居先が不明の方らを除く981人を対象に、2月に郵送で実施した。岩手217人、宮城205人、福島206人の計628人から回答を得た。12年から同じ人に郵送や面談で調査を続けている。12年の取材当時は、全員が仮設住宅や「みなし仮設」のアパートなど仮住まいで暮らしていた。