
◎ジャズ喫茶店主 冨山勝敏さん(陸前高田市)
東日本大震災の津波で流された陸前高田市のジャズ喫茶の店主冨山勝敏さん(73)が昨年、店の跡地に開いたバンガロー村を、来春閉じることになった。市街地復興のかさ上げ工事にかかるため撤去する。移転先の造成が完了するのは数年後。それを待って、ジャズ喫茶と宿泊施設を再建する決意だ。撤去の失意、年齢的な不安を乗り越えて再挑戦する。
この施設は「レインボーサライ」(虹の宿)。同市本丸公園入り口の高台にバンガロー7棟が並ぶ。
「ボランティアや被災地を訪れる人を泊め、にぎわいを生みたい」と、津波で流されたジャズ喫茶「h.イマジン」があった跡地に昨年3月11日、私財900万円で設けた。「ここにジャズ喫茶を再建したい」と自ら図面も描いていた。
閉鎖は、この土地が市の復興土地区画整理事業のかさ上げ工事の対象となることが分かったためだ。海抜10メートルあるが、さらに2メートル余り、かさ上げされる。
「残念だが、やむを得ない。建築の際に、市と『工事区域に入る場合は移転する』との約束があった」
市の中心部では大規模な区画整理が進む。移転先は新たな商業地の一角になるが、造成完了時期に2016~18年度と幅があり、場所はまだ分からない。
「すぐには再建すると決められなかった」と言う。迷った理由は、数年を待つ間に重ねる年齢への不安だ。「体は維持できても、気力が今のままかどうか」
将来、どれほどの人が陸前高田に来てくれるかも不確かだった。開設から昨年末までの宿泊客は約9カ月間で約500人だったが、ことしは6カ月が経過したのにまだ170人。「大勢の人の力を求めるボランティア仕事が少なくなった。被災地への関心の風化もあるかもしれない」
数年先の再出店を希望する市内の事業者も、当初の約300人から120人ほどに減った。それでも、再建を決断させたものは「お客さんや街がどうなるかではなく、自分がどう生きたいか-という原点を大事にしよう」との思いだ。
郡山市出身。東京の企業を定年後、美しい三陸をついのすみかに選んだ。03年に大船渡市碁石海岸にジャズ喫茶を開いたが、火事で焼失。10年12月に開いた陸前高田市の店も津波で失った。再起して12年3月に大船渡市で仮店舗を出し、次の夢の場所がレインボーサライだった。
「5度目の挑戦もいい。この土地で生きていくのだから。復興の行方は分からないが、新しい街に大人のジャズの店を開きたい」
冨山さんは、もう動き始めた。仲間の商店主らと近く、中小企業再建のグループ化補助金を申請するつもりだ。
(寺島英弥)