震災被災地 防潮堤に新たな課題

2015年9月25日(金) NEW

阿部
「今、東日本大震災の被災地は、思わぬ課題に直面しています。」

和久田
「被災地の沿岸部では、防潮堤の建設が進められています。
計画の総延長は400キロ。
およそ9,000億円かかる費用は、すべて国の負担です。」

阿部
「しかし、防潮堤の中には、計画当初とは事情が変わり、津波から守る対象があいまいなまま整備が進んでいるものもあることがNHKの取材で分かってきました。

震災被災地 防潮堤 新たな課題

宮城県の沿岸に整備される防潮堤計画が記された文書です。
“背後に集落”“水産関連施設”など、防潮堤ごとに守る対象が記されています。

その1つ、宮城県気仙沼市の滝浜地区。
4億円余りをかけ、80メートルに及ぶ防潮堤が建設されます。
整備計画では「集落があるため」と記されていました。
ところが、予定されている防潮堤の高さは海抜11メートル。
今残っている住宅は整備される防潮堤より高い位置にしかありません。

地元住民
「ここの場合(防潮堤を作る必要は)ないと思う。
だって何を守るの、家ないもん。」

地元住民
「作っても、若い人がいなくなると意味がない。」

整備計画と実態にずれがある防潮堤は、どのくらいあるのか。
NHKでは、宮城県で市や町が漁村に整備する防潮堤、101地区を取材しました。
その結果、集落を守るという67の防潮堤のうち、住宅がない地区は37に上ることがわかりました。
さらに水産加工場などを守るとする防潮堤の一部でも実際には、整備の見込みがたっていないことが分かりました。
101の防潮堤のうち、実に41か所で当初の計画とは異なる状況のまま整備が進んでいたのです。

なぜ、こうした事態が起きているのか。
防潮堤計画の多くは、震災直後の混乱した時期に国の整備方針に沿って作られました。
21の防潮堤計画が進む南三陸町です。
町が防潮堤の建設を決めたのは、震災の年の12月。
当時、町は現場の実情を細かく把握できる状況ではありませんでした。
さらに、防潮堤の背後をどう活用するかも決まっていませんでした。

しかし、全額、国の費用で賄うことができるため、町は壊れたすべての防潮堤の復旧を申請。
国も被災地の復興を最優先し、自治体の申請をそのまま認めてきました。

南三陸町 三浦孝建設課長
「将来そこを使うとなった時に、今回復旧をしなければ、後での復旧はできない。
悩んだんですけれど、最終的には原形復旧しようと決断した。」

水産庁 防災漁村課 米山正樹課長補佐
「たとえ背後の町づくりがまだ固まっていなくても、先に防潮堤を進めることができる地域であれば、それはひとつの復興の進め方と思っている。
そういうものについては国としても最大限支援していきたい。」

ところが、町の人口は震災以降、2割以上減少。
漁業者の数も3割減りました。
町は今、防潮堤の背後をどう利用すればいいか頭を悩ませています。

8メートルを越える防潮堤の整備が進む、南三陸町の折立地区です。
震災後、住民は高台に移転。
町は宅地を買い取り、企業を誘致する計画を考えました。
しかし、土地の権利が複雑で、産業団地を作るだけのまとまった土地を確保できませんでした。
そこで町は、海辺に潮干狩り場を整備。
苦肉の策として背後に駐車場を作れないか検討していますが、見通しは立っていません。

南三陸町 三浦孝建設課長
「漁港、防潮堤、道路、すべて復旧はすると思う。
そのとき町の姿はどうなるのか。
そうならない(何もないということがない)ように、どうにかしなければならない。
一抹の不安はある。」

防潮堤計画 見直しは

和久田
「取材にあたった、仙台放送局の広池記者です。
当初の計画と異なっているのであれば、実態に合わせて計画を見直すということはできないのでしょうか?」

広池記者
「自治体の中には『場所によって防潮堤を作らない』と決断したところもあるんです。
しかし多くの地区では、やめるのは非常に難しいのが現状なんです。
理由としましては、防潮堤があることで、たとえ海から離れた場所に住んでいても、安心して暮らせると考える人も多いということと、将来、背後の土地を活用できるという可能性も残るわけなんです。
つまり、ただちに必要ないとは言い切れずに、判断は難しいんですね。
そしてもうひとつは、再び同じような津波が襲ってきた際に、万一何らかの被害が出れば責任を問われかねないという懸念も自治体にはあります。」

震災4年半 これからの復興は

阿部
「自治体の担当者の方も悩んでいましたよね。
震災から4年半がたって、被災地それぞれ事情が変わっていく中で、新たな課題に直面しているわけですね。」

広池記者
「取材した自治体の担当者からは、防潮堤を作らない代わりにその予算を別の事業に使えるならいいが、制度上それができないから結局作ってしまうという本音も聞かれました。

被災地の復興は壊れたものを元に戻すということを原則に、これまでスピード優先で計画が進められてきました。
ただ、4年半たって、人口減少など被災した地域によっては大きく状況が変わってきています。
10年後、20年後を見据えてこれからどういう復興を目指すのか。
4年半というタイミングで、もう一度、国も自治体も予算の使い方を考え直す作業が求められているのではないかと感じました。」

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