検証変貌するまち>読めぬ集客 出店迷う

左手の山裾に建つ災害公営住宅前のかさ上げ地が新たな市街地になる=2月10日、陸前高田市

◎(上)未来図への不安

東日本大震災の津波で壊滅した陸前高田市中心部の高田地区に、海抜12メートルにかさ上げされた約100ヘクタールの大地が誕生する。
ことし市街地区域で商業施設の集積が始まるが、住宅の整備はまだ数年かかる。新しい街にどれだけの住民が戻るのか。予測ははっきりせず、商業者は出店すべきか悩む。
先行する26ヘクタールの新市街地で今夏、大型商業施設が着工する。周辺に商店街、さらに周縁には住宅地。公共施設やJR大船渡線バス高速輸送システム(BRT)の陸前高田駅を設ける。市が描く未来図だ。

<投資見合わず>
市が貸す商店街用地の地代は被災事業者なら1平方メートル当たり年311~340円と格安だ。仮設店舗の集積を狙うが、1月末に締め切った借地申請は29事業所にとどまった。
地元商工会が2014年に実施した調査で、中心市街地での再開希望は118事業者に上っていた。市商工観光課は「スタート時としては想定内の数字」と受け止めるが、先行きは見えない。
仮設商店街でカフェを営む太田明成さん(49)は大型店へのテナント入居を考えた。だが家賃と共益費が震災前の倍となる月20万円と分かり、諦めた。
新店舗建設の見積もりでは自己負担が1500万円を超えた。「月の売り上げを30万円増やさないといけないが、投資に見合うだけの集客があるのか。借金を返すための出店にならないか」。自問を繰り返す。
仮設を限りに廃業を決めた人もいる。布団店経営の菅野幾夫さん(66)は「年も年だし、後継者もいない。潮時だ」と創業140年の老舗を畳むつもりだ。
高田地区の土地区画整理事業の計画戸数は震災前と同規模の1560。対照的に市が15年6月、仮設住民を対象にした住宅再建意向調査で、地区内の高台やかさ上げ地を希望したのは230世帯(15年9月集計)にとどまる。しかも家を建てられるのは17年度以降だ。
既に地区内の災害公営住宅に住む人は調査対象に入っていない。実際の居住世帯はこれより増えるとみられるが、市も実数をつかみきれていない。

<生活の場分散>
数年間は近隣住民がほとんどいない。地域経済を支える復興作業員は減っていく。病院や学校は高台に移り、生活の場が分散する。市街地には買い物や飲食の機能しかない。そんな街の姿が出店意欲を鈍らせる。
「またシャッター街をつくるのか、と言う人もいる。でも、誰かに設けてもらった街で愚痴を言いながら商売したいか。考えに考え、自分たちの手で魅力ある街を実現しよう」
地元商工会の中心市街地企画委員長の磐井正篤さん(59)は勉強会の度にげきを飛ばす。商店街に和雑貨店を出すが、もちろん不安だ。
「人工的に街を築く壮大な実験。でも、身の丈より少し背伸びした街にしたい」。今は笑って前へ歩くしかないと覚悟を呼び掛ける。(太楽裕克)

津波被害を防ぐため、まちが変わる。巨大事業が進む中、被災者は暮らしや日々の営みで厳しい選択を迫られた。復興まちづくりで生じた課題を追う。
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